
20世紀スイスの文学・芸術における「戦略としての素朴さ」についてメディア横断的な研究 を行う。18世紀以降、新たな自然美として芸術的、思想的、経済的にも注目されるようにな ったアルプスは、スイスに「牧歌的な素朴さ」のイメージをもたらしたが、19世紀の近代国 家成立以後、このイメージは「スイス的なもの」としてスイスのアイデンティティのひとつ にまで発展し、イデオロギー化するに至る。こうした状況を背景に、20世紀スイスの文学・ 芸術において「素朴さ」は、多様な戦略をもって独自の展開を見せるようになる。本研究で は、20世紀初頭の作家R. ヴァルザー、F. グラウザー、画家E. クライドルフやP. クレーか ら、20世紀後半の作家M. フリッシュやP. ビクセル、現代アーティストのフィッシュリ&ヴ ァイスに至るまでのスイスの作家・芸術家たちが試みた「素朴さ」の戦略を、社会的・メデ ィア的環境の変容と関連づけつつ、メディア横断的視座から論じる。